ドライバーに対する事業者の指導及び監督の責務


トラックの運行の安全を確保するために、トラック事業者は、ドライバーに対して安全運行に必要な技能と知識を習得させ、他の運転者の模範となるべきドライバーを育成するという重要な責任があります。この責務を果たすためには、ドライバーが理解できるよう、参加・体験・実践型の指導方法を取り入れるなど、その手法を工夫するとともに社会情勢の変化に対応した指導内容にするために、関係行政機関や団体などから幅広い情報を取集することが必要です。また、指導・監修を実施する指導者の質の向上を図るため、指導及び監督の内容、手法に関する知識や技能を習得し、常にその向上を図るよう努めることが必要です。

特定のドライバーに対する指導

ドライバーが酒気帯び運転やスピード違反、放置駐車の繰り返しなどの貨物自動車運送事業法、道路交通法やその他の法令に基づき遵守すべき事項に違反した場合は、トラック事業者もその指導及び監督の責任から処分を受けることになります。ドライバーに違反させないためにも、ドライバーに対する指導及び監督を継続的かつ計画的に実施していくことが必要です。ドライバーが事故を起こした後、再度トラックに乗務させる前には、特別な内容で指導をする必要があります。
初めてトラックの運転にあたるドライバーを選任する前に、原則として特別な内容で指導をする必要があります。高齢のドライバーに関しては、適性診断の結果が判明してから1ヶ月以内に、適性診断の結果を踏まえて、身体機能の変化、安全な運転の方法などについて指導をする必要があります。

ドライバーごとの特性の把握

ドライバーに対してどのような項目に注意して指導及び監督を行うべきなのかを見出すためには、それぞれのドライバーの普段の運転の傾向や健康状態を把握することが必要です。運行データ、健康診断記録などからドライバーごとの特性を把握しましょう。ドライバーの運転傾向について把握するためには、適性診断の結果を活用することが効果的です。映像型記憶ドライブレコーダーやデジタルタコグラフ(デジタル式運行記録計)を車両に装着することにより、ドライバー自身の運転の状況、更には事故やヒヤリハット(運転中に他の自動車または歩行者などと衝突または接触する恐れがあると認識した事例)のデータを活用しましょう。健康診断及びストレスチェックの結果などにより、ドライバーの疾病などの状況についても把握しておくことが大切です。これらを踏まえて、指導及び監督の内容の中で特に強化すべき項目を見出し、重点的に指導してください。

指導及び監督の実施計画の作成

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指導・監督指針の内容をまんべんなく指導するとともに、ドライバーごとに重点的指導をするための計画を立てましょう。指導・監督指針の内容について、運行の安全を確保するために必要な運転に関する技能及び知識をドライバーが効率よく習得できるよう、年間、月間、週間などの計画を立てましょう。指導の計画は、指導・監督指針の内容をすべて網羅していることを確認してください。指導内容に応じて、個人的な指導が良いのか、集団で指導するのが良いのかを検討しましょう。集団で指導する場合は、ドライバー同士のディスカッションやグループに対する指導により理解を深めます。他の運転者の意見も聞くことができ、独りよがりにならずに安全について認識を深めることができます。

ドライバーの理解を深める指導及び監督

ドライバーの理解を深めるため、指導をわかりやすく行うだけでなく、ドライバーが指導の内容をどの程度理解しているかを常に監督し、必要に応じてさらなる指導を行ったり、ドライバーが理解していないと判断できる部分を重点的に指導したりすることで、ドライバーが指導した内容を確実に実施できるようにしましょう。ドライバーに対して行った指導及び監督の内容を記録、保存し、ドライバーが継続的に指導及び監督を受けて継続的に理解が深まっているかを確認できるようにしましょう。

さらなる理解を促す手段

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ドライバーに対して指導を行う際、一方的に講義をするだけではんくドライバー自身が考えることにより、指導の内容をより深く理解できるよう促すことも効果的です。交通事故については実際の事故事例を取り上げ、その発生の要因や再発防止のための取り組みについて、イラスト、映像など教材を用いてドライバーの事故の発生状況について分かりやすく説明し、少人数のグループに分けて話し合いをさせることがさらなる理解につながります。実際の車両を用いて、トラックの車高、視野、死角、内輪差、制動距離などの車両の特性について確認させることも有効です。

 

引用参考  自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル

運転装置を搭載したトラックの適切な運転法


運送業に利用されるトラックなどの自動車には、運転支援装置が搭載されています。「衝突被害軽減ブレーキ」や「斜線逸脱警報装置」など、自動車に備えられている運転支援装置の特性や使い方に関する知識が不十分であったり、性能を過大評価することは、事故の要因につながります。

運転装置に関わる事故事例その1

ACC(Adaptive Cruise Control/アダプティブ・クルーズ・コントロール装置)とは、正式名称を「定速走行・車間距離制御装置」と言い、高速道路や自動車専用道路で使用することを前提に開発されたもので、その名の通り車間距離を一定に保ちつつ、定速走行を車が自動でやってくれる装置です。この装置は「車間距離を一定に保つ」装置であり、衝突の危険性がある時に自動でブレーキを起動させるものではありません。ACCを自動ブレーキのようなものと誤解して使用し、衝突被害軽減ブレーキを搭載していない大型トラックが高速自動車道を85km/hで運行中、当該トラックのドライバーが運転席後方の荷物を取ろうとした際脇見運転になり、前方の渋滞に気付くのが遅れて渋滞に最後尾に追突し、5台を巻き込む多重事故となりました。この事故により、追突された乗用車農地1名が死亡し、2名が重傷、7名が軽傷を負いました。

運転装置に関わる事故事例その2

衝突被害軽減ブレーキを搭載していないトラックが高速自動車道を約80km/h(制限速度80km/h)で走行中、早朝運行中だったために眠苦なり居眠り状態となり、路側帯でタイヤ交換をしていた2人と接触しました。このドライバーは、ACCを自動運転のようなものと誤解して使用していたため、正しい利用方法をしていませんでした。この事故により、はねられた2人は全身を強く打ち、間も無く死亡しました。

ブレーキ制御を行う装置

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●衝突被害軽減ブレーキ
(前方障害物衝突被害軽減制動制御装置)

この装置は、レーダーにより先行者との距離を常に検出し、安全な状況にあるかどうかを監視します。もしも衝突、追突の危険性が高まると、まずは音などにより警報をだし、ドライバーにブレーキ操作をうながします。それでもドライバーがブレーキ操作をせず、車両が追突する、もしくは車両が追突する可能性が高いと装置が判断した場合、システムにより自動的にブレーキを操作し追突時の低く抑えるようにします。先行者が急ブレーキをかけたりして衝突被害軽減ブレーキの範囲を超えてしまう場合には必ずドライバーの操作が必要となるため、ドライバーは交通状況の把握を常に行う必要があります。衝突被害軽減ブレーキは、このシステムのみで衝突を回避したり安全に停止できるものではありません。衝突被害軽減ブレーキのレーダーセンサーに汚れなどが付着していると、システムが正しく作動しない恐れがあるので、日常の点検を怠らないように心がけてください。

 
●アダプティブ・クルーズ・コントロール/ACC
(定速走行・車間距離制御装置)

レーダーなどで前方を監視し、ドライバーがセットしたスピードを維持するとともに、自分の車両よりも遅い先行車がいる場合には、先行車との車間距離を適正に維持して追従走行します。先ほど記載した通り、この装置は「車間距離を一定に保つ」装置であり、衝突の危険がある場合に自動でブレーキを起動させる装置ではありません。これを間違えて認識していると、思わぬ重大事故につながりかねません。また、運転操作が軽減されることや、先行車との車間距離が維持される安心感から居眠り運転に繋がったり、装置を過信して前方不注意になり、脇見運転につながり事故の要因になることがあります。ACCを過信しすぎず、十分な注意を払った運転を心がけましょう。

ハンドル操作の警告や支援を行う装置

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●ふらつき注意喚起装置

ドライバーの低覚醒状態や、低覚醒状態の時の挙動を検知し、ドライバーに注意を喚起するようにします。ふらつき注意喚起装置は、居眠り運転や脇見運転を可能にする装置ではありません。この装置は、検出できない環境や運転操作があるため、走行中すべての状況を網羅しているモニター装置ではありません。走行中は油断せず、常に集中して運転することが前提です。

 
●車線逸脱警報装置

走行中の車線を認識し、車線から自動車がはみ出た場合あるいははみ出しそうになった場合に、ドライバーが車線の中央に戻す操作をするよう警告が作動します。この装置の中には後付けされたものがあり、その内でもウィンカーと連動せず車線変更や交差点などで曲がった際に警報が作動するものもあるので、ドライバーは自社の装置がどのような性能であるかを把握する必要があります。

 
●車線維持支援制御装置

カメラで前方の車線を認識し、高速道路の直線路で車線を維持して走行するのに必要なハンドル操作を適切に支援します。しかし、この装置はハンドル操作を軽減するものであり、装置が単体で車線を維持するすべての操作を行うものではありません。ドライバーは必ず適切なハンドル操作が必要であることを認識しましょう。

様々な装置が安全な運行を補助しますが、ドライバーの適切な判断を基にした運転が最重要です。それぞれの装置の機能を正確に認識し、正しい運転を行えるよう意識しましょう。

 
引用参考  自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル

健康管理の重要性


トラックドライバーは、病気が交通事故の要因になる恐れがあることに触れましたが、疾病が運転に及ぼす影響や、健康診断の受診や日々のストレクチェックは重要です。トラックドライバーは、不規則な業務形態から生活習慣病を患う人が多くなっています。そこでまず、どのような病気にかかりやすいか、どのように予防するかをご紹介します。

糖尿病などの疾病

トラックドライバーは食事時間が不規則となり、食事内容もトラック内での簡単な食事になり、生活スタイルが乱れがちです。このような生活は、消化器疾患、肥満、生活習慣病につながります。生活習慣病の代表的なものとして糖尿病が挙げられますが、症状が進行すると薬物療法が必要です。そして、この治療法を行うことで低血糖を引き起こす場合があります。低血糖になると意識が混濁し、運転に危険を及ぼします。また、糖尿病になると喉が渇いて水分を多く摂取するようになり、その結果多尿になるため連続した運転に支障をきたします。疲れやすくなる症状もあるため、疾病が原因で過労運転のような状態に陥ってしまいます。日頃からバランスの良い食生活を心がけましょう。

脳や心臓の疾病

居眠り運転が原因と思われる交通事故のうち、実は運転中に脳卒中を起こしたり心臓病のため突然死したことが原因で起こった事故であったケースが増えています。脳卒中や心臓病は、その要因が高血圧や動脈硬化などの生活習慣に関わることから生活習慣病と呼ばれていますが、自分では気づかないうちに進行している場合が多く、症状が現れた時には治りにくい段階にあり、突然死に至ることも多くあります。長時間同じ姿勢でいることでエコノミー症候群を引き起こし、それによって発生した血栓が心臓に送られることで心不全を起こすこともあります。血栓ができにくい体づくりのために、肉の脂身やバター、生クリームのような動物性脂肪を摂りすぎないようにし、イワシやサバなどのEPAやDHAが多く含まれる青背の魚や、野菜やキノコ類、豆などの食物繊維をたくさん摂るようにしましょう。

生活習慣病の要因

生活習慣病の要因は、日々における生活の習慣、すなわち食生活、運動習慣、休養、飲酒、喫煙です。これらの習慣が不健全であることが積み重なって発病するものです。特に普段の食生活は生活習慣において大切です。日々の健康に注意し、バランスの良い食事を心がけましょう。

健康診断受診の必要性

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労働安全衛生法に基づく「労働安全衛生規則」では、事業者は、労働者に対して定期的な健康診断を行うことが義務付けられています。ドライバーは、会社で提携している医療機関の健康診断を必ず定期的に受け、健康な状態を保つよう心がけましょう。健康診断で注意事項が指摘された場合には、適切な治療を行い健康な状態に戻るように能動的に行動してください。もしも、月45時間を超える時間外労働があった場合は、産業医による健康管理についての指導を受けましょう。月100時間または平均で月80時間を超えて時間外労働が会った場合には、産業医の面接による保険指導が必要となります。産業医を選任していない事業所でも、産業保険総合支援センターの地域窓口を活用すると、無料で産業保険サービスを受けることができます。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)

十分に睡眠をとっているのに眠気が取れない場合は、睡眠時無呼吸症候群になっていることが考えられます。睡眠時無呼吸症候群は生活習慣病と密接に関係しており、放置すると命に危機が及ぶこともあります。また、睡眠時無呼吸症候群特有の眠気は、交通事故につながる可能性が高く、プロのドライバーとして早期に適切に治療することが大切です。

ストレスチェックなどの受診の必要性

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労働安全衛生法では、労働者が50人以上いる事業者は毎年1回、ストレスチェックを常時雇用する労働者に対して実施することが義務付けられています。ストレスチェックの結果で「医師による面接指導が必要」とされたドライバーから申し出があった場合、医師に依頼して面接指導を実施することが必要です。車内で誰に申し出るのか、面接指導はどの石に依頼して実施するのかなど、ストレスチェック制度の実施方法を話し合い、車内の規定として明文化しましょう。
ストレスチェックと面接指導の実施状況は、毎年労働基準監督署に所定の様式で報告する必要があります。労働者が50人未満の事業者はドライバーに対してストレスチェックを実施することは義務付けられていませんが、ドライバーのストレス状態の把握のために簡易的なストレスチェックを利用することが可能です。ドライバーの精神面の健康管理の重要性に対する理解が促進されるよう活躍しましょう。

 
引用参考  自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル

ヒューマンエラーを防ぐために


道路交通法などの関係法令において禁止されている事項を確認し、普段何気なく行っている動作などが事故に繋がらないよう、規制内容を明確にしましょう。

道路交通法の禁止事項

道路交通法第71条「運転者の遵守事項」には、14の事項が記載されています。また、各都道府県が定める規則などにより追加で禁止されている事項があります。

 

●携帯電話使用の禁止
(道路交通法第71条第5号の5)
自動車または原動機付き自転車を運転する場合、運転している自動車などが停止している時を除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置を通話のために使用し、または当該自動車などに取り付けられ、または持ち込まれた画像表示用装置(カーナビゲーションなど)に表示された画像や動画を注視しないでください。

 

●自動車等運転中の大音量での音楽等の再生やイヤフォン等の使用の禁止
(神奈川県道路交通法施行細則第11条等)
大音量で、またはイヤフォンもしくはヘッドフォンを使用して音楽などを聴くなど安全な運動に必要な音または声が聞こえない状態で自動車、原動機付き自転車または自転車を運転してはいけません。

焦り、イライラ、疲れている時の運転

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焦り、イライラ、疲れが原因によるヒューマンエラーによる事故は、ドライバーのみの責任となるのではなく、ドライバーのそう言った状況を作った会社全体の責任だということを認識しましょう。運行管理者は、道路状況やドライバーの仕事量が適切かどうかなどを適切に判断し、余裕を持った運行計画を立てましょう。
ドライバーの健康状態もヒューマンエラーによる事故につながります。トラックドライバーは、不規則な業務形態から生活習慣病を患う人が多くなってきています。これらの疾病を要因としている事故も多く発生しており、心臓疾患によるドライバーの死亡率も高まっています。食事時間が不規則となり、食事内容もトラック内での簡単な食事になりがちで、そのことにより消化器疾患、肥満、生活習慣病につながります。糖尿病は生活習慣病の代表的な疾病ですが、進行している場合は薬物療法が必要となります。しかし、薬物療法によって低血糖を引き起こし、意識が混濁するなどの症状が運転に大きな危険を及ぼす病状を招く可能性があります。日頃からバランスのとれた食生活を心がけるようにしましょう。

運転席周辺の環境整備

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車外の脇見運転だけでなく、運転中に車内のものを注視することや、車内に置いたものがドライバーの視界や操作の妨げとなることがあり、追突事故などの要因になることがあります。伝票や地図の確認を行う際には、路肩などに一時停車し余裕を持って確認しましょう。運転席のみならず、助手席側も整理整頓することが大切です。助手席側の安全窓などの視界が遮られることは、交差点での左折時の巻き込み事故などの原因となります。足元やシートの隙間に落ちたものを拾おうとしてよそ見をしたり、落ちたものがペダルに挟まって捜査を妨げることも、思わぬ事故の原因となります。

 

引用参考  自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的な指導及び監督の実施マニュアル